タイトル:独立するの?しないの?
執筆者:ひつじのおやこ
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「ママ―、迎えにきて~!!」
私はパソコン作業の手を止め、立ち上がって、窓の外に顔を出す。
学校から帰宅した娘が、地上からこちらを睨みつけるように見上げている。
「は・や・くーーーー!!」
私は、やれやれと思いながら、サンダルをつっかけ、下まで降りていく。
私が近づいていくと、娘はにんまり笑って、
「ママって良いにおいがするから大好き~」
と言いながら、私のおなかにぎゅーっと顔をうずめてくる。
私も同じくらいの力を込めてぎゅーっと娘を抱きしめ返す。
「お疲れさま。お帰りなさい」
下校した娘がこのように私を呼びつける日は、ママに甘えたいのサインだということが、最初はわからなかった。
元気いっぱいに帰ってくる日もあるが、ぐずぐずモードで帰ってくる日の方が多い我が家の小学2年生。登下校のランドセルは重いし、学校の授業は6時間もあるし、毎日くたくたに疲れてしまうのだろう。
私は在宅でフルタイムの仕事ができる現在の環境を、心から有難いと思っている。
お帰りのハグをして、子どもの体と気持ちを受け止める瞬間は、母親である私の充足感を最高に満たしてくれる、一日のハイライトだ。
===
そんな娘が、2年生の春休みも後半に差しかかった頃、唐突に
「明日からおじいちゃんの家に行く!」
と宣言したのだ。
「突然どうしたの?」
私は冗談だろうと思った。
「だって家にいると、ママがあーだこーだ、マジで超うるさいんだもん!」
娘はそう言い放った翌日、おじいちゃんを迎えに来させて、本当に家を出て行ってしまった。
娘がいない今夜は、私と5歳の息子の二人きり。いつもだったら家族3人でわーぎゃー騒がしい食卓も、一人欠けただけで、やけに静かだ。いつになく黙々と食べる息子に話しかけてみる。
「ママってあーだこーだ、うるさいのかな~?」
「まあね、結構うるさい方だと思うよ」
即答する息子。
「そ、そうかな~!?」
努めて明るく聞き返す。
「『早くゴハンたべなさーい!』とか『早くオフロ入りなさーい!』とかね」
私の声まねをする息子はドヤ顔だ。
「でもさ~」
食い下がろうとする私に、
「こっちだって色々と大事なことをやってるんだよ」
容赦ない息子の言葉に、ぐうの音も出ない。
そうだよね、もう5歳だもんね。誰だって、大事なこと、色々あるよね。
===
春休みの最終日、娘は自宅に戻ってきた。
翌日、新3年生として学校から帰宅した娘の第一声は、
「私、今日から自分だけの部屋がほしい」
だった。いつになく意気揚々とした娘は、私が仕事でたてこんでいる隙に、自力でベッドを空き部屋に運びこみ、あっという間に自分の部屋を完成させてしまった。
娘の独立宣言は、親として喜ばしいことのはずだが、私の正直な気持ちは戸惑いと焦りだった。
2年前に夫が亡くなって以来、ご飯を食べるのもお風呂に入るのも寝るのもどこに行くにも、いつもいつも3人一緒だったというのに。
こうなったら、私だって、自分だけの大事なこと、やったる!もっと仕事をがんばって、大人の友人関係も築いて、いつか子ども達が私の手を離れるその日に向かって、私自身も独立する準備を今すぐ始めよう。
心の中で一人誓いを立てる。
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しかし、それから一週間後、娘は
「やっぱりママと一緒に寝たいの」
といって、私と息子が寝ているベッドに潜り込んできた。
私は、口ではぶーぶー文句を言いながらも、内心ほっとして、満ち足りた気持ちを感じた。
私がいま大事にしたいこと。
それは、家族3人で一緒に過ごす瞬間をたっぷり味わい尽くすこと。
窮屈なベッドの中で、子ども達の呼吸と体温を感じながら、そんなことを思う。
というわけで、私の独立宣言はいったん保留ってことでよいかしらん?
Mother's Dayキャンペーン2024ご寄付のお願い
最後までお読み頂きありがとうございました。このエッセイは、Mother's Dayキャンペーン2024のために、シングルマザーのひつじのおやこさんが執筆しました。NPO法人シングルマザーズシスターフッドは、シングルマザーの心とからだの健康とエンパワメントを支援する団体です。ご寄付は、「シングルマザーのセルフケア講座」の運営費として大切に使わせていただきます。ご寄付はこちらの寄付ページで受け付けております。
私にも同じくらいの娘がいます。一人でできる!って言い出したり、あまえんぼになったりするの、どこのお家も一緒なんですね。ひつじのおやこさん3人家族の姿を想像したら、なんだか楽しい気持ちになりました。
子どもが離れていけるということは、帰れる場所があることが分かっているから、 そして、 しっかり見守ってもらえているという安心感があるから。 子育ては期間限定、自然と離れていくまでは、心ゆくまで一緒の時間を楽しみましょう!