寄付月間キャンペーン2023 エッセイ⑧
- 夏希
- 2023年12月26日
- 読了時間: 4分

はじめてのテント泊で、私のこれからを考えた。
執筆者:夏希
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寝袋の中。
隣で可愛い息子が、これまた可愛い寝息を立てている。
私は頭の中で、あの絵本のページをめくる。
林明子作・絵『はじめてのキャンプ』
親子で何度読んだだろうか。
主人公のなほちゃんが、外でひとりトイレを済ませてテントへと戻る。夜のテントは狭くて温かくて、誰かが寝ている気配に満ちていて…。
なほちゃんも私も同じ。テントで不思議な安心感に包まれている。
物心ついた頃から、心が動くとこんなふうに絵本が頭に浮かぶ。
あの絵とそっくりな景色だな、とか、あの子もこんな気持ちだったのかな、とか。
世代や場所や形を超えて、ながく寄り添ってくれる絵本が大好きだ。
「絵本の魅力を広め、いつか自分で作りたい」
仕事一筋でいなければと思っていた私が、胸を張って夢を語れるようになった。
きっかけとなった三つの出来事を思い返す。
******
新卒から今の会社に勤めている。
月の大半を出張先で過ごした営業時代には、忘れられない出会いがいくつもあった。
新規事業の立ち上げを担当した時は激務で、深夜まで働いた後、翌朝始発の新幹線に飛び乗ったこともある。
プライベートでは、職場結婚して、育休中に電撃(?)離婚。社内を少々ざわつかせ、最高に気まずい職場復帰を果たした。
その後は親子ふたり暮らしにつき、時短勤務、出張・休日出勤不可という制約と闘う日々。「息子のために稼がなきゃ」と自分を奮い立たせ、黙々と働いた。
そうやって会社で築き上げたものが私の「キャリア」そのもので、今後も社内だけで延々と続くと思っていた。
そこへ、三つの出来事がやって来たのだ。
一つ目。
退職した元夫からの養育費の支払いが途絶え、音信不通となった。
「パパに会ってみたい」という息子の至極当然な願いはかわされ続け、叶えてあげることができぬまま。
最期まで人生を共にすると誓った人は、何も言わずに姿を消した。
二つ目。
シングルマザーズデジタルキャンプという就労支援プログラムに思い切って参加した。そこで、働くことの意義を再確認し、胸に秘めた夢をはじめて人に打ち明けた。
「夏希さんなら夢も仕事も、どちらも大切にできる!」
信頼する仲間からの言葉は、私の背中を優しく押した。
三つ目。
日毎に増える仕事を時間内に終わらせねばならない。同僚の残業時間も心配だった。未来への投資として業務改善やチーム全体のサポートに力を入れるようになり、その成果が私の過去の働きぶりと共に評価された。
昇給額は支払われない養育費とほぼ同額で、元夫の力を借りる必要がなくなったという事実が、そこにはあった。
人に裏切られ、それでも努力した自分を認めるようになった。
人に勇気づけられ、未来の自分を信じるようになった。
無駄なことなんて何もない。
全てが重なり合って、一つの大きな転機となった。
たとえ環境が変わっても、誠実に働き続ける自信がある。
だからもう、「キャリア」を社内に留める必要はない。
私は私に、夢を見させてあげよう。
そう決心した私は、自作のストーリーを書き上げ、締切間際の絵本コンクールに応募した。
折角だからお風呂に浸かりながらそっと披露する。
聴き入る息子の表情が印象的だった、大事な一歩。
こうやって夢も仕事もどちらも味わうのだ。
その軌跡が、新しい私の「キャリア」となっていくはずだから。
******
すっかり時間が経ってしまった。
天井を見つめるしかないテントの中って、考え事をするのにもってこいみたい。
もうじきてっぺんに穴があきそうなので、一旦瞼を閉じてみる。
そのまま頭を空っぽにして息子の寝息を数えていたら、いつしか深い眠りについていた。
外はまだ真っ暗闇。けれど、新しい一日は静かに、確かにはじまっていた。
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最後までお読みいただきありがとうございました。このエッセイは、寄付月間キャンペーン2023のために、シングルマザーのなるさんが執筆しました。
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