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寄付月間キャンペーン2023 エッセイ⑦

  • なる
  • 2023年12月22日
  • 読了時間: 5分
寄付月間キャンペーン2023 エッセイ⑦:バツからマルへ

バツからマルへ

執筆者:なる


🎙️音読はこちら

バツからマルへ



「3年は病棟で経験を積め」と言われる看護業界。


同期の多くが病院に就職する中、私は一人、保育園に飛び込んだ。


こどもに接する仕事がしたかった。


こどもは一つ一つに全力だ。ごはん粒を練り、魚を握った手。おろしたての靴で突き進んでいく水溜まり。左右柄違いの靴下。そんな彼らが大好きだった。


園児たちが、自分の心や体に関心を持ち、自分を大切にできるようになって欲しい。そのために何ができるだろう。考えるだけでわくわくした。


一方で、将来の理想は専業主婦になることだった。


毎日可愛いこどもたちの姿に触れていたからこそ、まだ見ぬわが子の成長を一瞬も見逃したくない。早く結婚して、何よりこどもが欲しい。漠然と、ただ強く、そう考えていた。


*****


鳴り終えた目覚ましが呆れた顔でこちらを見ている。


一刻も早く家を出なければいけないのに、動けない。


まるで自分の体ではないかのように力が入らない日が、次第に増えていった。早く寝なければと思うのに、気付くと朝日が差している。


莫大なタスクと孤独な環境。大好きなこどもたちに会いたいのに、職場へ向かえない。どうしたらこの世から消えられるか、そればかり考えていた。


そんなとき、初めて自分を丸ごと受け入れてくれるパートナーに出会い、初めて弱みを見せた。そして結婚を機に仕事を辞め、こどもを授かった。


念願の専業主婦となり、夢だった愛おしいわが子との生活が始まった。こんなに幸せで良いのかとまで思った日常は、そう長くは続かなかった。


様々な要因から、いつしか私は元夫の顔色を伺いながら生活するようになっていた。


喜ばしいはずの2度目の出産間近になってもなお、元夫との間にはどこかぎこちない空気が漂っていた。


強烈な不安に駆られて泣き出す私に、「ママ、どうしたの?」と3歳児に慰められる始末。


繊細なこの子はきっとわかっている、と思った。時折やってくる凍り付いた夫婦の空気と、それを感じ取る娘。


第2子の出産を経て、現実を見ざるを得なくなったとき、私の心は決まった。


私がこの子たちを幸せにするんだ。


*****


「ふぇ~んふぇ~ん」


空腹を訴え泣く新生児の声でやっと瞼を持ち上げる。なんとか添い乳をしながら上の子の姿を探すと、枕元からベッドの周りまで、昨夜はなかったおもちゃが散乱している。


また、動けなくなった。


一時的でもわが子を預けたくはなかったが、とても2人の子をワンオペでみられる状態ではなかった。泣く泣く児童相談所へSOSを出した。


「よく連絡してくれたね。ありがとう。」職員さんはそう言って手を差し伸べてくれた。


そんな状況でも、ひとり親という生き方を選んだ以上、働くことからは逃れられない。ただ、もっとわが子との時間を確保できる働き方はないだろうか。復職を見据えながらもひたすらスマホで検索していた。


要注意家庭としてマークされたのだろう。保健師さんが定期的に訪問してくれた。産後ヘルパーや産後ケアも利用した。内服も続けた。使えるサービスはフル活用していたが、復職の連絡すらままならない精神状態だった。


そんな私に、上司は繰り返し「なるさんの体が一番だから。」と言ってくれた。「色んな道があるから。でも、短時間でも帰ってきてくれたら助かる。」とも。もう、情けない自分を隠している場合ではなかった。


私には、帰る場所がある。


上司の「気分転換と思って」という言葉に背中を押され、どきどきしながら出勤してみることにした。先輩たちは歓迎してくれただけではなく、保育園に入れないわが子のために、ベビーベッドを探し、おむつやミルクまで用意してくれていた。


有り難く頼らせてもらっても、いいのかもしれない。そんな気持ちが膨らんでいった。


今、息子のことは皆が見てくれている。上司や同僚に抱っこされ愛嬌たっぷりに笑顔を振りまく姿に、息子も私も幸せだな、と思う。息子だけではない。娘のことも、そして私のことも、いつも気にかけてくれている。


ここで働きたい。


あの頃憧れていた専業主婦でもなければ、自力でそつなくこなせる母でもない。けれど、たくさんの人に助けてもらって生きている今の私も、こどもたちに見てほしい。


ひとりでできないときは、助けて、とお願いする。助けてもらったら、感謝を伝える。そして、困っている人がいたら何かできることはないか尋ねてみる。


自力でやりきることだけが強さじゃない。

色んな人に支えてもらって生きているって、幸せ。

それがわかったから、これまでの私にも、これからの私にも、〇(マル)をあげたい。



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最後までお読みいただきありがとうございました。このエッセイは、寄付月間キャンペーン2023のために、シングルマザーのなるさんが執筆しました。
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