寄付月間キャンペーン2023 エッセイ③
- サチコ
- 2023年12月8日
- 読了時間: 4分

私がつくる、私だけの仕事
執筆者:サチコ
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最初の夢は小説家。
偉大な何かになりたかった。
その気持ちの半分は本当。半分は、寂しさだった。
誰かに私の話を聞いてほしい。心を打ち明けられる人がほしい。
大人になって家を離れ、理解しあえる人たちに出会った。
自主映画のサークルで、企画を立て、仲間と深くつながり、作品を形にしていく。その作業がたまらなく好きだった。報酬はゼロでも、私にとってはそれが「仕事」だった。
アルバイトで食いつなぎ、友達に会いにいく電車賃もない悔しさを知った。
そうか、ここが私の限界か。
だったら会社員になって、少しでもピンとくることを探そう、と気持ちを切り替えた。
いくつかの職歴を経て、好きな仕事はアートプロジェクトの企画制作だ!と気づいた。食べられるようにもなっていた。
けれど…いわゆるふつうの「会社員生活」は、私にとってはハードルが高かった。
妊娠する前の会社では「サチコさんに8時間勤務は無理でしょ」と、制度がないのに、特別に私だけ、時短勤務にしてもらっていた。
子どもが産まれてからも働き続けるなんて、現実味はまるでなかった。
出産後は専業主婦になり、子育てが終わったら、昔やりたかった研究でも細々と…そんな思いで学生に戻った。
当時の私に、「あなた、数年後、シングルマザーになって、働き続けてるよ、大学院も続けてる」と言ったら、誰より信じないのは私自身だと思う。
離婚を決めて、2人分稼がなければならない現実に震えた。
3歳の子、という徹底的に要求の大きいクライアントがいる以上、制作職は難しい。大学院での研究も面白くなってきていた。
考えて、事務職を選んだ。
やりたい仕事より、やれる仕事。
お母さんらしく、安定した、申し分ない仕事だった。
ただ一点、「自分に合っていない」ことを除いて。
恵まれた環境、決められた時間、座っているだけでお給料がもらえるような仕事だった。
でもそこに、私の情熱はなかった。
誰かとの心のつながりや、一緒に何かを作り上げる興奮も。
新しい職場で数か月後、体が悲鳴を上げ始めた。
はじめてのひとり親生活、フルタイムでの勤務、学会発表…
限界を超えていた。
ほうほうのていで駆け込んだ心療内科では、「いま来てくれてよかった」と緊急用の電話番号を渡された。
何とか回復し、起き上がれるようになったある日。ハローワークの帰り道に、もう一度生活を組み直そうと決意した。
離婚したってなんだって、自分は徹底的に、自分にしかなれない。
私の好きだった仕事は…
そうだ、誰かとつながり、一緒に何かを作り上げること、言葉で情熱を伝えること。労働時間は少なくても、生活がまわり、研究も諦めなくていい。
でも、そんな仕事は、世界のどこにある?
いくつかの偶然とご縁で、いまの私は、好きな制作の仕事と研究、2つの「書く仕事」で生活している。
手放したのは、予測可能な未来と正社員という立場。
「本当にこの先、大丈夫?」
不安を数え、キーボードを触る手が時折、止まる。
けれど私は、書くことが好き。結局のところ、打ち込める。体が勝手に動いてしまう。
今の私にはいつも、この人と頑張りたい、そう思える仕事仲間がいる。その気持ちがもう一度、パソコンの前に座る勇気をくれる。
「好き」の力は、どんな恐怖も打ち消していく。誰かと心がつながったその瞬間、ここにいてよかった、と心から思える。
そうして、こつこつと文献を読み、出会ったこともない友だちと心を通わせるように、文学研究を続ける。書くことは私にとって、現在と未来をつなげる種まきだ。
書き続ける。
名声のためでなく、誰かとつながる喜びのために。
私の仕事は私がつくる。世界にたった一つ、私だけのキャリアを、これからも歩んでいく。
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最後までお読みいただきありがとうございました。このエッセイは、寄付月間キャンペーン2023のために、シングルマザーのサチコさんが執筆しました。
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